第2回 コラボの裏側

2018年9月4日に発売された、ミズノ株式会社と株式会社タカラトミーアーツによるコラボレーション商品「ダッシュドライバーゼクー」。腕に装着して正しいフォームで走ると音が鳴り、子どもが楽しみながら速く走れるようになる「かけっこコーチングギア」だ。発売当日にテレビ東京「ワールドビジネスサテライト」で取り上げられ、話題となった。放送を見た編集部は早速、発売したばかりのダッシュドライバーの開発秘話やほかのコラボの取り組みについて、ミズノ株式会社コーポレートコミュニケーション部メディアコミュニケーション課の山本美香子さんにお話をうかがってきた。

——株式会社ミズノはどんな会社なんですか?

1906年に創業した、スポーツに関わるものを幅広く扱う会社です。「より良いスポーツ品とスポーツの振興を通じて社会に貢献する。」を経営理念として、スポーツ品の提供はもちろん、スポーツ施設運営など場所の提供や、「忍者学校」「かけっこ教室」という子どものためのスポーツ教室などソフトの開発もやっています。競技する人のための道具だけではなく、日常シーンでの健康のためのサービスも増えてきました。

——普段、山本さんはどんなお仕事をされているんですか?

広報の窓口をしています。今回のようなメディアの取材の調整をしたり、リリースを書いてメディアに配信したり、提案に行ったりします。このダッシュドライバーゼクーのプレスリリース書きました。当日の夜のニュースにも提案し、ご取材いただきました。

——実は、弊社の子持ちの女性社員がその放送を見て、「すごくおもしろいコラボがある」と教えてくれたことがきっかけで今回取材にうかがったんです。

ちょうどそのニュースを見ている層がお父さんお母さんなのかもしれないですね。ニュースでとりあげられると話題になります。ネットでも反響がありました。

速く走れるようになるヒーローウォッチ

 

——ダッシュドライバーゼクーのコラボのきっかけを教えてください。

ダッシュドライバーはもともと2014年に第1弾を発売していました。子どもたちにとって「速く走る」ということはとても重要なんです。子どもがモチベーションを上げながら速く走れるようになるものを目指して商品開発を始めました。注目したのは、走るとき、肘の角度が90度になるように前後に大きく腕を振ると速く走れるという研究です。ダッシュドライバー第1弾は、肘につけて走ると「カンカンカン」と物理的に音が鳴るというものでした。肘につけて音を聞きながら走ると自然と上手な腕振りができ、速く走れるようになります。第2弾は左右の色を変えて装着をわかりやすくしました。

——ゼクーは第3弾だったんですね。

「子どもがもっと楽しみながら使えるようなものにしよう」と考えていた商品企画担当が、「ヒーローウォッチみたいな形にしたらいいんじゃないか?」と思いついたんです。それで、トイショーに参加したとき、飛び込みでタカラトミーアーツ様に「一緒にできませんか?」と相談にいき、それがきっかけとなって実現しました。

——おもちゃショーがきっかけだったんですね。弊社も先日の東京おもちゃショーを一般参加の日に見に行って記事にしました。企業の日には実際にその場で企業同士でコラボの話が決まっていくんですね。

商品の開発担当者は勉強のためにもそういう場所によく見に行っているそうです。今回、ダッシュドライバーゼクーの発売に際しては、ギフトショーのタカラトミーアーツ様のブースの中で展示いただきました。今までおつきあいのない販路の方からお問い合わせをいただいたりとか、メディアの取材を受けたりとか、日頃なかった接点を持つこともできました。

——コンセプトや対象はどのような想定なのでしょうか?

「子どもに自信をつけてもらって笑顔にかえたい」というのがコンセプトです。対象年齢は5歳以上です。「かけっこが早くなりたい」と思っていて、ヒーロー好き。速く走れたら運動会でヒーローになれます。男の子っぽい見た目ですが、女の子も喜んでくれています。また、この年齢は言葉では教えるのが難しく、見本を見せても難しい。自分で体感するほうが自然と身につくし理解もできます。このようなコンセプトの商品はこれまでありませんでした。

子どもがほしがるデザイン

 

——画期的ですね。共同開発するにあたって、ミズノとタカラトミーアーツの役割はどのように分かれていたんでしょうか?

もともとの考え方はミズノです。ダッシュドライバーゼクーは、いわばアナログ式に音が鳴っていた第1弾や第2弾から進化して、センサーで動きを感知してスピーカーから音が鳴ります。タカラトミーアーツ様にセンサーやサウンドプログラム技術、本体デザインを協力いただき、ミズノから子どもが楽しくなる音を提案し、走りの動作解析での音の出すタイミングを何度も打合せさせてもらいました。パッケージのデザインも本体と合わせタカラトミーアーツ様に提案を頂きました。「こんな感じにしてほしい」と何度も打ち合わせをして、最終的に完成しました。最初は鳴る音は6種類だけだったのですが、タカラトミーアーツ様が工夫して上級の「ダッシュモード」を搭載しました。おもちゃとしてのノウハウが使われていて、うちだけではできなかった商品です。

——コラボしてよかった点は何でしょうか?

タカラトミーアーツ様が子ども目線で携わってくださったので、子ども自身が本当に欲しいと思えるものができたんじゃないかということです。おもちゃの基盤の技術を使って、「ダッシュモード」など、ミズノだけではできなかったことが実現しました。ダッシュモードは、速く腕振りができると途中で「ダッシュモード!」の声がして音がエンジン音に変わるという、上級者になったように楽しめるモードです。パッケージも含めて、子どもが喜ぶおもちゃのような見た目に、楽しくて効果のある機能を盛り込めたことが、コラボしてよかったところです。

——苦労点を教えてください。

腕振りと音が出る間隔の調整です。ちゃんと腕を振ったときに音が出るような間隔にしないと意味がなくなってしまうので、そこは苦労しました。初代の2つは振ると物理的に音が鳴っていましたが、今回はセンサーの反応の間隔。ミズノが運営しているかけっこ教室に来た子どもに装着してもらってモニターし、調整していきました。

——教室を運営しているからこそ、モニターして開発に反映できるんですね。

子どもも喜んでくれて、多くの子のフォームがすぐに改善しました。うちの息子ももうすぐ5歳なんですが、渡した瞬間すごくテンション上がって走り回ってました。言葉で説明するよりも一回やってみればすぐにわかるみたいです。

——タカラトミーアーツとのコラボは今回がはじめてだったんですか?

そうです。何かしら続編をやりたいねという話も出ています。今回のように「スポーツとおもちゃのいいとこ取りをしたような商品を作って子どもの笑顔を作っていきたい」というのが両社の思いであるので、今おそらく担当者はおそらく計画中だと思います。ダッシュドライバーは「走る」という動きだったので、それ以外のいろんな動きや運動、スポーツを考えているんじゃないでしょうか。

ダッシュドライバー第1弾と第2弾

 

——ほかのコラボを教えてください。

最近は総合家具メーカーのカリモク様とコラボして、座るだけでスクワット運動ができる椅子「スクワットアーブル」を開発しました。見た目はカリモク様が売っているソファなどとセットで買えるような家具なんですが、座ると沈み込んでまた上がってリビングで気軽に運動できます。普通にスクワットをするよりも心拍数が上がらずに効果的に鍛えることができるので、なかなか運動しづらい方とか高齢の方、「急にスポーツを始めるのは……」という方などに使っていただいています。

——ほかにもありますか?

子会社のミズノテクニクスが、ゴルフやテニス用品の開発で培ったカーボンの技術をもっています。軽くて衝撃に強いカーボン素材です。実はこれを、トヨタの「MIRAI」という自動車の水素を貯蔵するタンクの外殻部分や、カシオの「G-SHOCK」のベルトに材料として使っていただいています。材料や技術のコラボですね。

——今後もコラボは増えていくのでしょうか?

スポーツ人口はどんどん減っていますが、やはり高齢者を含めて、運動するというのは重要なことなんです。普段の日常に運動を取り入れるにはいろいろな可能性があります。競技用よりは日常の健康維持のための商品を開発するという意味では、コラボ先があって実現するものもたくさんあるので、これからもコラボを検討していく方向です。ミズノがもっている技術を使ってもらい、お互いにメリットが見いだせるようなコラボをしていきたいです。

——ありがとうございました!