第5回 コラボの裏側

(株)新興出版社啓林館(以下省略、新興出版社啓林館)が発行し、全国の書店で販売されている小学生向けの問題集「教科書ぴったりテスト」がお菓子メーカーの(株)江崎グリコ(以下省略、グリコ)と異色のコラボをして注目を集めています。「問題集になぜお菓子?」と疑問がわくこのコラボについて、同社の書籍学参企画課課長の湯浅嘉晃さん、同課でコラボを企画した松田惇志さんにお話を伺いました。

数十年続く「専用付録」も人気の問題集

――新興出版社啓林館はどのような会社なのでしょうか?
湯浅さん:3つのブランドに分かれ、小学生から高校生向けの教科書や問題集、児童書を発行している会社です。ブランドの1つである「新興出版社」では学習参考書を発行、さらに「啓林館」のブランドでは教科書を作っています。もう1つのブランド「文研出版」は主に児童書を作るブランドです。

――学生に向けた幅広いジャンルの制作をされているんですね。今回グリコとコラボした「教科書ぴったりテスト」はどんな本なのですか?

湯浅さん:「教科書ぴったりテスト」は、小学生向けの問題集で、教科書にあわせた内容になっている「準拠」問題集と呼ばれるものです。新興出版社のブランドで発行している人気シリーズですね。こちらは国語、算数、理科、社会をまとめて専用バッグに入れた「4冊セット」も販売しています。

「教科書ぴったりテスト」の4冊セット。
専用バッグは同社がオリジナルで考案したもので、色は好みにあわせて6種類から選べる。

湯浅さん:この4冊セットには数十年前から「専用の付録」をつけています。この付録をお目当てに購入される方も多いようです。近年では「地球儀ビーチボール」や光学機器メーカーの株式会社ビクセンとコラボして実現した「星座早見表」などがあります。

松田さん:今回のコラボも、グリコ開発の教材「GLICODE(グリコード)」の学習用キットを、こちらの4冊セットの専用付録にしたものなんです。

遊びながらプログラミングを学べる

――「GLICODE」とはどんなものなのでしょうか?
松田さん:グリコと株式会社電通が共同で開発した、プログラミング学習のための教材、アプリケーションです。こちらは総務省が推進する2016年度「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業」にも選定されています。2020年には小学校でプログラミング教育が始まりますが、それに対応しているんです。プログラミングの基礎となる考え方、プログラミング的思考を学べます。

「GLICODE」のアプリのタイトル画面。
「GLICODE」の学習用キット。

――どんな仕組みで学べるのですか?

松田さん:グリコのお菓子「ポッキー」をテーブルや紙の上など白いところに並べて、スマートフォンのカメラからアプリケーションに読み込ませると、ポッキーの向きがプログラミングのコードの代わりとなって、その向きの通りに、アプリ画面上のキャラクターを動かせます。キャラクターを動かしてステージを進めていくと、プログラミングの3つの基本要素である「SEQUENCE(順番に実行)」「LOOP(繰り返し)」「IF(場合分け)」の考え方が理解できるようになっています。コラボで付録になった学習用キットにはポッキーの絵柄の「コマ」が5枚入っていて、ポッキーがなくてもすぐに遊べるようになっています。小麦アレルギーなどでポッキーで遊べないお子さまにも楽しんでいただけます。

「GLICODE」起動中の画面。
キャラクター「ハグハグ」(左上)を泣いている女の子(右下)のところまで誘導すればステージクリア。
カメラでポッキーを読み取る様子。
チョコのついている方を上下左右に向けた場合はその方向にハグハグが移動するよう入力される。

新しい付録に「驚き」が欲しかった

――楽しみながらプログラミングの考え方が学べるんですね。おなじみの「ポッキー」だから感じられる親しみやすさも魅力だと思います。松田さんが「GLICODE」を知られたきっかけは何だったのでしょうか?

松田さん:プライベートで妻と旅行に出掛けたときです。新幹線に乗る前に買っておいたポッキーのパッケージで知りました。そのころはこのような企画をする現在の部署に配属されたばかりで、自分なりの爪痕を残そうと、「4冊セット」の新たな付録を探していました。付録としてぴったりだと思い、その後グリコのHPから連絡したんです。

湯浅さん:正面突破なんです(笑)

――とてもいいタイミングだったんですね。付録、企画として魅力を感じたのはどんなところですか?

松田さん:学習参考書とはかけはなれたように感じられるお菓子メーカーの「グリコ」とのコラボという「驚き」があったことです。また、グリコという知名度のある企業によって、より多くの人に商品を知ってもらえればという狙いもありました。もちろん、「小学生の学習のためになる」という点が共通していて、「コラボ先にもメリットがあれば」とも思っていたので、非常に魅力を感じました。

「知られていない教育」を解決する「新しい見せ方」

――たしかに対象の年齢が近く、お菓子をきっかけに興味を持ってもらうこともできそうですね。このコラボで想定していたターゲットはどんな方ですか?

松田さん:やはり「教科書ぴったりテスト」を知らない方です。プロモーションとして、書店の売り場で「GLICODE」と「教科書ぴったりテスト」の動画を一緒に流させていただいています。今は書店に行かない方も多いと思うので、そういった方にも問題集を知ってもらえるよう、ポスティングや学童へのDMもする予定です。また、事前にプレスリリースを出しました。

――プロモーションの反響はいかがでしたか?

松田さん:たくさんの方に興味をもっていただけたのが嬉しいです。プレスリリースのおかげか「読売オンライン」や「リセマム」で取り上げていただきました。リセマムは教育関係の方がご覧になっているので、ターゲットに限らず、同じ業界の方や社内からの関心を得られたのも良かった点です。アクセスランキングでも上位に入り、多くの方に知っていただけたのではないかと思います。

――知ってもらうという点で成功しているんですね。逆に、この成功の裏で苦労された点などありましたら教えてください。

松田さん:まだプログラミングの教育について、あまり認知されてされていなかったことでしょうか。2020年に小学校での教育が始まるため、プログラミングを取り扱う学習塾やワークショップも増えていると思いますが、実際には「知らない」「よくわかっていない」というご両親も多いはずです。そのため、コラボとしてプログラミングをどの程度押し出していくのか、そのバランスを検討する必要がありました。

――たしかに、「よく知らない」場合には「関係ない」と思われてしまうかもしれませんね。どのように解決されたのですか?

松田さん:その結果今回は、「グリコとのコラボ」という驚きとお子様との親しみやすさの側面もあわせて打ち出すという考えに至りました。具体的には、書店売り場でのポップのデザインなどです。商品や付録そのものよりも、グリコと共通するブランドイメージを表現しました。

湯浅さん:よくスポーツの応援で使われているバルーンも、ポッキーの絵柄で書店に配置しました(トップの写真参照)。書店にはめずらしいと思います。

書店用のポップ。従来の学習参考書とは違い、
商品の自体の写真やロゴを大きく扱わない変化球的なデザイン。

――知らない方にいかに見てもらえるかという視点でたくさん工夫されているんですね。最後に、今後はどんな感じで取り組もうとされていますか?

松田さん:具体的には未定ですが、2020年には東京オリンピックもありますので、「オリンピック×教育」でいければと思っています。

湯浅さん:付録で「応援グッズ」なんかも良いかもしれませんね。どちらにせよ、コラボによってお互いの付加価値をつけられるようにできればと考えています。

――コラボによってお互いの商品価値が上がるのは理想的ですね。2020年のご活躍も楽しみにしております。今回はありがとうございました!