第12回 コラボの裏側

スポーツ選手の環境改善を求める声が日増しに高まってきました。その中で、2019年3月に大学生アスリートのサポートを充実させるため「UNIVAS(ユニバス)」が発足。サポート体制は多岐に渡り、同年8月には、KDDI・マイナビ・MS&ADホールディングス・河合塾グループ・KEIアドバンスなどの多くの企業とパートナーシップ契約を締結。様々なサービス提供を模索しています。長きに渡りスポーツビジネスマーケティングに携わり、大学教授を務め、「UNIVAS」の運営や組織作りに取り組む専務理事の池田敦司さんにお話を伺いました。

――一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)の設立の経緯を教えてください。

池田 日本の大学スポーツは、課外活動と位置づけられ、学生を中心にした自主的・自律的な運営をしてきました。そのため、大学側の関わりが部分的なところが多いのが現状です。また、大会を開催する学生競技団体も競技ごとに発展していて、高体連(全国高等学校体育連盟)や中体連(日本中学校体育連盟)のような、競技横断的な統括組織は存在していませんでした。 有識者や文科省の方々から、社会に貢献する人材の育成・経済の活性化・地域貢献など、大学の大きな潜在力を十分に活かしきれていないという課題が提起され、「大学スポーツの更なる振興」を検討する目的で、検討会議が発足したのが平成28年4月。検討の後、大学間をつなぐ新たな組織を作るべきだという提言がなされました。その後、統括組織をどのように具現化していくのか方向性の議論がされ、日本版NCAA(全米大学体育協会)設立準備委員会が発足。さらに、平成30年度中に組織を立ち上げるという目標を掲げ、当初の検討から足掛け3年掛けて、ようやく今年3月1日に一般社団法人大学スポーツ協会(UNIVAS)が発足しました。

――具体的にどんな活動をされているのでしょうか。

池田 学生アスリートがより良い環境で競技ができるよう、また幅広い経験ができるようにという観点で、3つのフィールドで活動しています。 まず1つめは、「人としての人生」と「競技者としての人生」をともに充実させるデュアルキャリア形成の支援です。小学生から続く教育課程の最終段階の大学は、学生から社会人への重要な移行期となります。だからこそ、スポーツの道を極めることももちろんですが、社会に出るための準備を含めた学業も、しっかりと身につけるための推進プログラムが必要となります。 2つめは、安全・安心。アスリートは、ケガという危険とは常に隣り合わせです。ケガの防止や、事故が起こった時の対処等安全性を充実させるガイドラインの策定や、ハラスメント問題に対応する学生相談窓口の設置、指導者への研修会の開催などを推進しています。3つめは、事業マーケティングです。現在、大学スポーツそのもののアピアランスが低いことが課題として挙げられます。例えば、大学スポーツで一般的に認知が高いものは、箱根駅伝や東京6大学野球等、一部の競技・大会に限られています。インカレと呼ばれる大学日本一を決める大会も競技毎に数多く開催されていますが、まだまだ認知度は低い現状です。まずは、知ってもらうことを目指して競技横断型大会や動画配信等でアピアランスを上げ、認知拡大を図っていきます。

――池田先生はどんな経験から、今の任務を担われたのでしょうか。

池田 主管のスポーツ庁で設立準備委員会という組織が発足したときに、各大学に「ワーキングループ」メンバー募集の打診がありました。私が所属している仙台大学では、積極的に取り組むべきだという方針で、私がワーキンググループに参画することとなりました。実は私は、大学の教授に就任してまだ2年程度。それ以前は、プロ野球の東北楽天ゴールデンイーグルスに取締役副社長として約11年半、Jリーグ・ヴィッセル神戸に約1.5年間代表取締役社長を務めていました。大学スポーツよりも、プロスポーツのビジネスマーケティング経験が長いですね。

――プロスポーツ界での実績も買われて、大学スポーツに携わっていらっしゃるのですね。UNIVASが活動する上での課題は何でしょうか?

池田 現在、UNIVASには222大学、34競技団体が加盟していますが、それらに所属している学生アスリートの人数は正確には把握ができておりません。大学において部活動は学生の自主性を尊重する課外活動として存在してきたために、大学が部活動の全てに関与している訳ではありません。もちろん、部活動毎に担当教員が配置されていて、詳細をしっかり把握している大学もありますが、すべての大学がそうではなく、部活動に所属する学生数を正確に把握できていない大学もあります。一方、競技団体も、競技者全ての登録制を敷いている競技団体や、大会毎に登録を行う競技団体等まちまちであり、何より競技を横断して登録者数を把握する組織が今までなかったわけです。まずはデータベースを作り、システム構築とデータ共有を図ることができれば、アスリートに様々なサービスを提供する基盤を作ることができます。それゆえ、根幹であるデータベースの構築は必須です。

―― KDDIやマイナビといった企業とパートナー事業が発表になりました。具体的にはどんな取り組みをお考えですか?

池田 KDDIさんにはデータベースの構築にあたって、技術力という大きな支援を受けています。また、大学スポーツのアピアランスを上げるため、ホームページでは各競技の試合動画を配信しています。ボールの回転数と反発が分かる動画などのテクノロジー開発をされているので、そうしたサービス提供も検討しています。我々だけでできることは限られていますが、専門家のKDDIさんとパートナーシップを結んで、協力のもと、今後さらに強化していきたいと考えています。 

――マイナビともコラボされるのですね?

池田 はい、マイナビさんはこれまで、人生の転機に寄り添うサービスを展開されてきましたが、大学生という時期は、学生から社会人になろうとしているまさに〝人生の転機〟です。マイナビさんとUNIVASが共同でプログラム開発し、彼らのデュアルキャリアが成立するようなサービスを提供していくことも考えています。 

――河合塾グループとのコラボもユニークですね。

池田 大学においては入試方法も多様化して、推薦入試やAO入試等の比率が上がってきています。さらに運動部に特化するとその割合は高くなります。大学生アスリートは、高校時代の早い時期に進学先が決定し、学生によっては半年近く勉強から遠ざかってしまいます。中には早期に部活動に合流し、競技一辺倒になるケースも多々みられますが……。学生は自ら大学生活4年間をイメージし、設計した上で〝なりたい自分〟に向けて科目を登録しなければなりません。一方で、上手くできない学生も出てきます。大学入学に際して、ビハインドにならないよう入学前にいろいろな知識を修得させる必要があるという有識者の意見を取り入れ、河合塾グループさんのeラーニングのシステムを活用しながら、学習する仕組みをつくる予定です。

――コラボ企業との記者会見では、複数企業との合同で行われましたね。非常にめずらしい試みでしたが、何か意図が合ったのですか?

池田 組織が発足したばかりで、まだ実績もなく、理念とビジョンと夢だけはある……その夢に共感していただき、金銭的な支援も含めて、UNIVASとパートナーシップを結んでいただいた企業には、とても感謝しています。同時に期待されているという責任感で身の引き締まる思いです。 スポンサー発表を行う時は、企業ごとに行うケースが定例です。しかし、今回に限っては、UNIVASは新しい組織で、「1つの企業で支える姿」より「みんなで支えるUNIVASという姿」のほうが、パートナーである企業にとってもありがたいと意見がまとまり、合同で行う形となりました。さらに、UNIVASと各企業だけでなく、今後はパートナー同士もコラボしていく可能性も十分に考えられます。 

――UNIVAS CUP」がスタートしました。こちらの取り組みを教えて下さい。

池田 今まで大学運動部の総合力を競う大会はありませんでした。本来ですと、国体やインターハイのように一堂に結集した大会のほうが分かりやすいのですが、日程や会場確保といった物理的課題が山積しており、そう簡単には開催できません。そこで、競技毎に今まで行われてきた大会を尊重し、ポイント付与で総合力を競える大会を開催することにいたしました。今年は31競技の31指定大会毎に順位ポイントを付与し、大学単位に合算することで、その大学のスポーツ総合力を競えるように設計しています。また、その指定大会の熱戦の模様を、オフィシャルサイトで動画配信しています。

――(UNIVAS CUPは)具体的にどういう効果が期待できそうですか?

池田 1つはアスリートや学生間の連携です。物理的に大会が他の競技と重なり応援に行けないとか、自分の競技にしか関心がない学生が、多い傾向にあります。こうした競技横断型で大学スポーツ総合力を競うことで、一般の学生もスポーツに興味を持ったり、アスリートも他の競技への関心が高まったりすることを期待しています。部活動に対する価値、ひいては愛校心を育んでいくような効果を狙いたいですね。

――最後に、今後はどのように進んでいこうとお考えでしょうか?

池田 まだ協会設立半年、よやくスタートを切った段階です。学生アスリートの競技環境の改善、学修意識の高揚、そして大学スポーツの振興に繋げていくためにも、多くの領域で学生アスリートをサポートして行かねばなりません。多様なサービスを具現化していくためにも、各領域の有力企業とのパートナーシップが重要であると考えています。根底にあるのは「アスリートファースト」です。

――学生アスリートのためにも頑張ってください。どうもありがとうございました。